院外処方箋の光と影
日経メディカルオンラインの記事であるが、最近の景気低迷で患者の受診抑制が顕著となり、一部負担金を軽減するために薬剤の処方を、処方箋から院内処方に戻す動きが出ているとか。
新潟県内の病院の例では、「院内の方が薬代が安くなることを伝えただけで、98%の患者が院内調剤を希望する」という結果に至ったそうだ。確かに、患者さんの側から見れば、院内で薬を貰えれば、調剤薬局に行く二度手間が回避されるし、かつ経済的ならばなお良いのである。
医療機関が院内処方に切り替えている要因の一つに、「経営上の理由により薬価差益に依存する」という体質もあるようだ。その結果、特に大規模の医療機関が院外処方箋から院内調剤にシフトすれば近隣の調剤薬局に与える影響は小さくは無い。そして、また薬価差益が無くなったからと院外処方箋に変更すればどうなるのだろう?調剤薬局はもとより、患者さんを振り回す結果となるのは必定だ。いくら、経営上の問題とはいっても、医療機関、特に大規模な医療機関は社会的責任も負っている訳だから、その点にも配慮の上で対応する必要があるだろう。
そもそも、現在の院外処方箋(調剤薬局)制度はどういった意味を持つのであろうか?
それは、患者が複数の医療機関で貰う多数の薬剤を管理するには、個々の医療機関で薬剤を貰うよりも、一ヶ所のかかりつけの薬局で一元管理した方が良いと考えたのだろう。しかし、現在の実態をみると、各医療機関の門前薬局的な状況であり、患者さんは受診した医療機関の前の薬局で薬を貰うことがほとんどであろう。かくいう私もそうである。実際、各薬局に各医療機関で処方する全ての薬剤をそろえておくなどということは不可能である。
先日、身内の薬を貰うために調剤薬局に行った。処方箋の発行元は市立の総合病院。その処方箋を持って、まずは自宅の近くの全国チェーンの大規模ドラックストアの中にある調剤薬局へ。ところが、何種類かの薬の内の一つが欠品。「取りよせになります」では話にならないのでパス。次には、少し離れた県立病院の前の薬局へ。しかし、ここでも同様に一種類が欠品。あれ、そんなにマイナーな薬?私は、その科の薬剤には詳しくないものの、名前をみると私も知っているくらいだからとてもマイナーとは言えない。
大病院の前の薬局でさえそうなのだから、巷の個人診療所の前の薬局では推して知るべし。これでは、かかりつけの薬局を作って、各医療機関で貰った処方箋をそこに持っていくという本来の目的には実効性がないということだ。
以前と違って現在は、お薬手帳もある。やると思えば、ICカード付き保険証に薬剤情報を格納することも可能である。したがって、かかりつけ薬局を持つという意義も薄れている。というより、前述の理由によりかかりつけ薬局自体実効性を持たないのではないだろうか?
話を戻すが、医療機関の院内処方にすることによってどのくらいの薬価差益がでるのだろうか?うちは、小規模個人歯科医院で、使用する薬剤は「抗生物質」と「消炎鎮痛剤」を中心としたわずかなものである。
当院の平成20年の薬剤の仕入れ金額は、保険収入の約6.3%。薬価差益は、全体では+2.3%であるが、薬剤の種類によってプラス有り、マイナス有りで一番多く処方されるロキソニン等は-9.3%と大きく赤字である。しかし、実際処方するときには、最低「処方料:42点+調剤料:9点+薬剤料:6点(屯用3回分)」で、合計点数は57点。従ってロキソニンの赤字(約0.6点)は充分に吸収できることになる。従って薬価差益は保険収入の0.14%にしかすぎないのだが、歯科は薬剤の使用が少なく金パラの使用がそれに代わる要因なので、薬価差益よりも金パラの差益の方が気になるところとなる。しかし、一般の医科においては薬剤の使用比率が大きいわけだからこれらの要因は経営に直結するのだろう。
実際、調剤薬局で順番を待っているうちに他の患者さんの動向を見ていると、一部負担金として1万円を越える金額を支払う人もいるようだ。たしかに、慢性疾患であれば一度に多くの日数分の薬剤が出されるだろうから、そういうこともあるだろう。1万円と言えば保険収入にして約3万円だ。とすれば、仮に薬価差益が2%あれば+600円となる。ちりが積もれば山となるで、1ヶ月ともなれば結構な金額になるだろう。大きな病院であれば月に1億円にもなるともきく。こうなると、院外処方では無く院内処方に戻そうという動きもでるのだろう。記事によると、こういった院内処方への回帰は多くても5%程度で、院外処方箋制度に大きな影響を与えるほどではないとの分析のようだが、とにかく自分の医院の利益追求だけでなく、医療機関は社会的使命の一翼を担っていることを踏まえなければならない。
蛇足: ところで。結局、処方箋の交付を受けた市立病院の前の調剤薬局で薬を貰うことができたのだが、そのとなりにもう一軒の調剤薬局がある。ここでは、処方箋の薬剤を貰うとスタンプカードが貰える。そして、スタンプが溜まると景品と交換ができる。市販の薬剤を買ってのことであればわかるが、保険の薬剤を貰ってスタンプを貰えるのは事実上の一部負担金の値引きとも言われかねないがどうなのだろうか?


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